すれ違う夫婦の心理

なぜ“優しいだけ”では男女関係がうまくいかないのか |心理学で見る“優しさの仕組み”

遠くを見つめる女性

こんにちは。

心理カウンセラーの浅野寿和です。

「優しい人が好き」。そう思ってきたのに、気づけばその優しさに疲れていた。

あるいは、

「自分が優しくしてきたのに、報われない関係ばかり続いている」。

そんなご相談をいただくとき、このようなお声を伺うことがあります。

「私の優しさって、何か間違ってたのかな?」

「優しいだけじゃ幸せになれないんですよね・・・」

実は、優しさにも“意味や構造”があります。

この構造を誤ると、相手を想っているつもりでも、関係がこじれてしまうなんてことが起こります。

そこで、本記事では、心理的視点から「優しい人」と「本当の優しさ」の違いを紐解きながら、“優しさを使って幸せになる”になるためのヒントをお伝えします。

「優しい人が好き」に隠れた意味が重要

恋愛・夫婦相談の現場で、最も多く聞く答えのひとつが「優しい人がいい」という言葉です。

けれど、時間と共にその言葉が重くなったり、疲れに変わったりすることも少なくありません。

なぜでしょう?

理由のひとつとして考えられることは、「優しさ=安心感」とは限らないから。

優しさが“相手のため”に作用するとき、それはきっと相手の支えになります。

しかし「優しい人=当たり障りなく、気遣いがある人」という意味だけで選ぶと、そこには“争わない安心”の裏に“相手と関わらないという意思”が隠れていることもあるのです。

優しさには二つのタイプがある

心理学研究では、善意・親切・利他的行為(prosocial behavior)の効果が多く報告されています。

例えば、善意の行為を行うことで幸福感が高まり、ストレスホルモンの低下など身体的・精神的な健康効果も確認されています。

しかし、それを“誰かを助ける=自分を犠牲にする”構図で捉えると、受け手・与え手のバランスを崩しかねません。

ここで区別したいのが、

  • 「自己維持のための優しさ」:自分の価値を守るため、役割を担うために優しくする。
  • 「関係を育てるための優しさ」:相手の存在を尊重し、応答を受け取りながら優しくする。

この違いが、長く共に過ごす恋愛や夫婦関係において大きな差を生みます。

いわゆる「優しい人だと思って結婚したのに、こんなにわがままだったなんて・・・」というボヤキ、いや、嘆きは、

当初は「二人の関係を育ててくれる優しさを持った人」だと思ったのに、実際は「人からよく思われたいから優しいだけだった」と見抜いた瞬間に生まれるのでしょうね。

いわば、同じ方向、幸せに向かって優しさを投資してくれていたわけじゃないんだ、と分かってしまったけど、もう結婚してるし子供もいるし・・・みたいな。

いや、これがいいか悪いかは別の話として・・・。

「優しい人」が抱えやすい罠

さて、優しい人ほど、恋愛の中でいくつかの“罠”にかかりやすい、ともいえます。

それは性格の問題ではなく、優しさの構造が関係をゆがめてしまうからです。

その事例をいくつかご紹介しますね。

1:役割としての「優しい自分」

「私は優しい人でいなきゃ」という思い込みがあると、優しさが“無条件”ではなく“自分を正当化する手段”になります。

その結果、優しさを向ける対象は“与え甲斐のある誰か”になりがちで、相手が自由に応答できる空間を狭めてしまうこともあるんです。

要は、優しさが相手にとってプレッシャーになるようなイメージですね。

2:反応・応答がないまま続く優しさ

心理学でいう「reciprocity(互恵性)」の観点でみると、優しくしても、それが相手から返されないと違和感・疲労が生まれます。

恋愛では、「彼は誰にでも優しいから私にだけ優しいわけじゃない」という不安がこの構図の典型ですね。

3:「優しさ=争わない」ではない

争いを避けること=優しさ、と思われがちですが、心理学的には“適切に境界線を引くこと”も成熟した優しさの一部です。

境界が曖昧だと、優しさは“我慢”になり、“疲れ”に変わります。

優しさの本質は「循環すること」

心理学の研究では、親切な行動をとると幸福感が上がり、心身の健康にも良い影響があることがわかっています。

たとえば、誰かに小さな親切を続けた人たちは、数日後に「気持ちが軽くなった」「人とのつながりを感じやすくなった」と答える傾向がありました。

つまり優しさは、「自分の中のやさしいエネルギーを動かす行為」なんです。

誰かに手を差し伸べると、自分の心も少し温まる。

この“心の循環”こそが、優しさの正体なのだと思います。

本当の優しさは、ただ与えることではなく、「相手の反応を受け取り、また返す」という反応の中にあります。

恋愛で言えば、「ありがとう」「うれしいね」「ごめん、今日は疲れてて」・・・

そんな小さなやり取りのひとつひとつが、心の血流をつくるようなもの。

優しさは、“止めないこと”が大切なんです。

流れ続けている限り、関係は自然にあたたかくなっていきます。

それは、どちらかが完璧に優しくなることではなく、

お互いが「もう一度、つながろう」と思える余裕を残しておくことのですよ。

優しさ=優しい人ではない理由

しかし、先に書いた「自己維持のための優しさ」は、少し性質が違うようです。

優しい自分でいないと関係が維持できない、とか、優しくしないと外からの評価が損なわれる、など、循環する仕組みにはなっていないのです。

ここが「優しさ」と「優しい人」の違いなのです。

本当の優しさを持った優しい人もいれば、優しい人だけど、優しさが循環していない人もいる、ということなのですね。

そして、恋愛や夫婦関係において「優しさが循環していない自分」で居続けると、いろいろと関係にヒビが入りやすいのだと僕は考えています。

どうすれば“循環する優しさ”を持てるのか

では、どうすれば循環する優しさを持つことができるのでしょうか?

大切なことは、「相手を大切に思って(相手を見て、感じて)関わる」という意識を、自分の中にちゃんと残しておくことです。

たとえ自信がなくても、相手を理解しようとする姿勢や、「あなたのことを感じているよ」という気配が伝わる関わり方は、確実に関係を変えます

優しさとは、相手に“与えること”ではなく、“感じて応答すること”なのです。

感じて応答するから、循環するのです。

その感覚を持つだけで、あなたの中の優しさは更に磨かれ、深まっていくわけですよ。

逆に、表面的な「優しい言葉」や「無難な対応」は、いっとき場を保つかもしれませんが、心までは動かせない。

これはある意味で「無力感を学習していること」と似ているのです。

いつか伝わらなくなる「手法」ばかり学んで、本質を感じることを遠ざけている、という意味で。

最初は優しく接することができても「私の優しさは届かない」と思いやすくなる。

結果、自分の魅力や愛情の力を疑ってしまうのですよ。

自分が相手を見て、感じて、関わって、優しくする。

自分が相手を優しさを持って迎え、捉え、反応する。

本当の優しさは、「主体は自分である」という感覚から生まれます。

そう捉えること以外に“優しさの循環”は生まれません。

つまり、優しさとは「我慢」や「一見整った接し方」を意味しているのではなく、「関わる意思」です。

完璧でなくても、迷っていても、自分の言葉で相手に届けようとする、そのまなざし。

それが、人と人との間に“通い合う優しさ”を培っていくのだと思いますよ。

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まとめ:優しさとは、関係を育てる行為

いかがでしたでしょうか?

カウンセリングの現場にいますと、「本当に優しい人」が「優しさが届かずに苦悩する様子」と出会うことがあります。

優しいからこそ、パートナーのことを満足させられない自分を嘆いたり、何をやっても改善しない関係に絶望するのかもしれません。

ただ、「もし、あなたのその優しさの本質が未だ発揮されていないとしたら?」という視点が持てるとしたらどうでしょう?

あなたという存在が、相手を見て、感じて、理解して、接する。

それが実現できたとき、関係改善の方向にシフトした、なんて案件は1つや2つではありません。

あなたが優しい人であることだけではなく、優しさを“循環可能なもの”として使える力こそ、本当の意味で関係を育くむのです。

あなたの優しさは十分に尊いものです。

そこに「受け取る」「応答する」「循環させる」という意識が加わると、“与えるだけの関係”から“育ち合う関係”へと変わっていきます。

そして、少し想像してもらいたいのです。

「本当の優しさを持っているあなたと、優しさを循環させることができなかった」と感じているパートナーさんの気持ちを。

あなたの優しさが、誰かの心をもう一度動かす日がきっと来ます。

僕はその瞬間を、心から信じています。

ABOUT ME
浅野寿和 | 心理カウンセラー/トレーナー
恋愛や夫婦関係、仕事、対人関係、生き方の”こじれ感”を「甘すぎない心理学」で解決。ただ、気持ちを受け止めるだけでなく、背景にある心理構造や関係性のパターンを整理し、「現実的で納得できる選択」を一緒に探っていきます。 臨床実績10,000件/東京・名古屋・オンライン対応。
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