こんにちは。カウンセラーの浅野寿和です。
今日は「インビシブル・ストラグル(invisible struggle)」というキーワードでコラムを書いてみます。
たとえば、こんな場面を想像してみてください。
恋人と何気ないやりとりをしていたとき、
何気ない一言に、なぜか涙がこぼれそうになる。
言葉にはできないけれど、「あ、これ、前にも感じたことがある」と思う。
でも、説明しようとすると、「なんかちょっと違う」と感じてしまう。
あるいは、職場で上司の態度に妙な苛立ちを感じているけれど、
冷静に考えれば別に大したことではないはずで、
でも、どうにも気持ちが収まらない。
「なんでこんなに反応してしまうんだろう」と、自分でも戸惑ってしまう――
こんなふうに、自分の感情や反応の“理由”がうまくつかめないまま、
確かに苦しさだけが残る状態に、心当たりはありませんか?
Index
インビジブル・ストラグルとは何か?
心理学の専門用語ではありませんが、
近年「インビジブル・ストラグル(invisible struggle)」という表現が、
こうした“目には見えない、けれど確かにそこにある葛藤”を指す言葉として使われるようになっています。
これは、
自分でも気づかないまま抱えている、
未処理の感情、言語化されなかった傷、
幼い頃に培った信念、誰にも話せなかった違和感。
そうしたものが、現在の関係や場面に投影されて起きる「反応のズレ」や「意味のねじれ」のことです。
目に見えない。
でも確かに自分の中にあって、
相手との関係や、自分自身との関係を静かに歪めていく。
それが、「インビジブル・ストラグル(見えない葛藤)」です。
こんなところにも、見えない葛藤が潜んでいます
恋愛でのケース
- 返信が遅れただけで「見捨てられた」と感じてしまう
→ 実は「自分は大事にされない」という長年の思い込みが揺れている - 相手の愛情が重く感じて、理由もなく離れたくなる
→ 「人に頼られる=苦しくなる」という過去の記憶がうずいている
夫婦・家族でのケース
- 些細なことで怒鳴ってしまう
→ 実際には「わかってもらえなかった小さな頃の自分」が怒っている - パートナーが優しくすると、なぜかイライラする
→ 「どうせ裏切られる」「信じると傷つく」という防衛が発動している
仕事や人間関係でのケース
- 指摘されると、極端に落ち込む
→ 昔「ミス=存在否定」と感じた経験が呼び出されている - 目立つ人を過剰に嫌う、自分を小さくする
→ 「目立つと叩かれる」という学習が、今も生きている
これらはすべて、過去の痛みが今に染み出してくるような反応です。
でも、当の本人には「なぜこれがこんなに辛いのか」が、わからない。
それこそが、インビジブル・ストラグルなのです。
見えない葛藤は、なぜ「わからない」まま居座るのか?
インビジブル・ストラグルの厄介な点は、
それが意識の表層に上がってこないまま、じっと心の底で生きていることです。
- 感情はあるのに、理由がわからない
- 苦しさはあるのに、どこにぶつけていいのかがわからない
- 相手に説明できないどころか、自分自身にも説明できない
こうした状態に陥ると、
人は「私が悪いのかもしれない」と自己否定したり、
逆に「相手がすべて悪い」と関係を断ったりして、
問題の根本には触れないまま、また同じ葛藤を別の場で繰り返してしまうことがあります。
では、どうすればいいのか?
まず必要なのは、「この苦しさには名前がない」ことを認める勇気です。
それだけで、少し楽になることがあります。
「わからないけど、確かにある」
その感じを否定せず、誰かと一緒に受け入れながら信頼していく。
そのプロセスが、このストラグルに名前がつくように光をあてる(深く理解し受け止めていく)第一歩になることが多いですね。
たとえば、こんな問いを自分に向けてみてください。
- 「この感情、いつか前にも感じたことがある?」
- 「今目の前の相手に、過去の誰かを重ねていない?」
- 「私は何を守ろうとして、こう反応しているんだろう?」
正解を出すことよりも、
“丁寧に向き合おうとする姿勢”そのものが、癒しの始まりです。
もちろん、誰かとの対話を通して、その「わからなさ」に名前がつくこともありますよ。
まとめ:分からなさとともにいること
人の心には、言葉にならない痛みがあり、
語ろうとしても、語りきれないものが確かにあります。
だからこそ、
私たちはときに「自分の苦しみ」すら見失ってしまうこともあるでしょう。
けれど、
その見失われた痛みに優しく目を向けることができたとき、
見えなかったはずの道が、少しずつ見えてくる。
インビジブル・ストラグルとは、言葉を持たなかった感情が、ようやく語られるのを待っている状態。
そう思ってみると、自分自身にも、誰かにも、少し優しくなれるかもしれませんね。
そしてもし、あなたの中にも「言葉にならないけれど確かにある何か」があるとしたら、
それは決して、ひとりで抱える必要のないものです。
人は誰かと共に、少しずつ言葉を見つけていくことができます。
そのプロセスをご一緒できるよう、僕も日々、その準備をしています。
もし必要であれば、あなたのその「まだ言葉にならない何か」について、お話を聴かせてくださいね。
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