夫婦のための心理学

「認められても満たされない」のはなぜ?受け取れない人の深層心理

腕を組み悩む女性

こんにちは。心理カウンセラー浅野寿和です。

「仕事で評価されても、なぜか心が満たされない」

「周りからは『すごいね』『しっかりしてるね』と言われるけど、素直に喜べない…」

「パートナーはいるのに、ふとした瞬間に深い孤独を感じてしまう…」

周りからは「真面目」「誠実」「頑張り屋さん」と見られながらも、内側ではこんな風に漠然とした「満たされない感覚」「心の渇き」を抱えている。

そういった思いを抱く方からのご相談。

毎日人に気を遣い、期待に応えようと日々奮闘し、弱音を吐かずに社会生活を送っている。

そんな健気な努力とは裏腹に、心はすり減っていくばかり。

「どうしてこんな気持ちにばかりなるのだろう?」

そんなお声をカウンセリング現場で伺うことも少なくないんですね。

そこで本記事では、あなたが抱えるその「満たされない感覚」の正体、そしてその根底にある「本当の願い」について、心理学的な視点、特にマズローの欲求段階説をもとに紐解いていきます。

読み進めていただく中で、ご自身の心の仕組みへの理解が深まり、苦しさから抜け出し、より自分らしく、心穏やかに生きるためのヒントが見つかるかもしれません。

なぜ「人の承認」が受け取れないのか?

なぜか認められても満たされない気持ち。

実際、そこで感じる虚しさや苦しさは、なんとも言葉で表現しがたい感覚かもしれませんよね。

ただ、そう感じるにも理由があると考えられるんです。

決してあなたの「わがまま」や「高望み」ではありません。

ましてや、「自信がない」という一言で片付けられるものでもないのです。

ここで使える考え方が、心理学者マズローによって提唱された「欲求段階説」ですね。

マズローは、「人間の欲求には段階がある」と考えました。

  1. 生理的欲求(食欲、睡眠欲など)
  2. 安全の欲求(心身の安全、安定した生活)
  3. 愛と所属の欲求(家族、友人、恋人との繋がり、集団への帰属感)
  4. 承認(尊重)の欲求(他者からの尊敬、自己尊重、達成感)
  5. 自己実現の欲求(自分の可能性を最大限に発揮したい)

この順番で、低次の欲求がある程度満たされると、より高次の欲求が現れると言われています。

社会の中で真面目に頑張っている人ほど、仕事での成果や周りからの評価によってたくさん承認をされてきたのかもしれません。

「すごいね」「頼りになる」「さすがだね」

そんな言葉をもらう機会も少なくないのではないでしょうか。

それなのに、なぜ満たされないのでしょう?

それは、あなたの心が本当に渇望しているものが、承認欲求のさらに土台にある、3段階目の『愛と所属の欲求』だからなのかもしれないのです。

「愛と所属の欲求」を簡単に表現しますと「孤独を避け、誰かと繋がり、どこかに受け入れられたい」という根源的な思いのことを指します。

単に「友達や恋人が欲しい」ということだけでなく、「自分は一人ではない」「受け入れられる居場所がある」「ありのままの自分を大切に思ってくれる人がいる」「心から信頼し合える深い繋がりがある」といった、温かく、肯定的で、安心できる人間関係を求める、人間の本質的な欲求と言えます。

言わずもがな、周りからの賞賛(承認)が間違いだなんて言えるはずもありません。

が、しかし、それが与えてくれる一時的な高揚感や達成感では、「愛と所属」への深い渇望を満たすことはできないのかもしれないですね。

だからこそ

「嬉しいはずなのに、どこか違う」

「もっと頑張らないと、と思いつつも、何かが満たされない」

そんな複雑な感覚を抱え続けてしまうと考えることができそうです。

つながりを求める気持ちと”理想郷”ではない現実の関係性

ただ、これはとても現実的な問題のひとつなのですが

「つながりを求める気持ち」を持ちながらも、実際は「”理想郷”ではない現実」を前にして、なかなか自分自身が求める心の乾きを潤せない、という状況が続くこともありそうです。

様々な事情によって得ることができなかった

「孤独を避け、誰かと繋がり、どこかに受け入れられたい」

という根源的な思いを満たす場所。

いわば心の「理想郷(とあえて表現します)」のようなものを、今ある人間関係や恋愛、夫婦関係の中に探し求めてしまう。

そんな心の動きが生じることも実際にあると思うのです。

しかし、それは、仕事の中にも、友人関係の中にも、場合によっては恋愛や夫婦関係の中に見いだせない。

人との関わりがあれど、心のつながりを感じらない。

そう感じている人も少なくないのではないでしょうか。

だからこそ

「とりあえず仕事を頑張ろう」

「人から認められるような存在になるよう努力しよう」

「大切な人のことを愛しぬこう」

(・・・そうなればきっと心の乾きも満たされるはずだ)

そういった思いと共に、日々努力されている方も少なくないのではないでしょうか。

腕組みして考え事をする女性
「見返りを求めてしまう」のはなぜ?苦しい心理と原因、手放す方法をカウンセラーが解説「人に過度な見返りを求めてはいけない…」 頭ではわかっているのに、ついパートナーや家族、友人、職場の同僚に「これだけやったんだから、何...

恋愛・結婚が「満たしてくれる」という思い

ただ、大人の人間関係の多く、例えば恋愛や夫婦関係は

この「理想郷」(=かつての理想的な母子関係のような、一方的に守られ、すべてを受け入れてもらえる絶対的安心感)を再現する場所ではないのです。

恋愛や結婚にそれを求めてしまう人もいるのかもしれませんが、それらの関係性は子供が保護者に依存する関係とは全く異なるものです。

精神的に自立した大人同士が、互いを一人の人間として尊重し、対等な立場で関わり合い、喜びも困難も分かち合いながら、愛を育んでいく関係なのですね。

もちろん

「恋愛や結婚をすれば、子供の頃に満たされなかった全ての欲求が完全に満たされるはずだ」

と期待する気持ちに罪はないのです。

が、そういった期待を持ち続けることによって「更に欲求が満たされない虚しさ」を感じるリスクが伴うのです(すべての関係性がそうではないのですけども)。

逆に言えば、子供時代に満たされなかった感情や、そこで感じた深い不安(見捨てられるのではないか、というような)を、大人になっても抱え続けてしまうこともリスクの一つといえます。

その未消化な感情が、知らず知らずのうちに、せっかく出会えたかもしれない、大切な仲間、本当に愛し合える人との大切な関係性に影響を与えてしまうこともあるようです。

また実際に、恋愛や結婚に「心の乾きを潤すことを求めていた」にも関わらず、実際にはそうではなかったという思いを抱いた経験から、恋愛や結婚に対して肯定的な思いを抱けなくなった方もいるのかもしれませんしね。

このあたりはケースバイケースの話になりますけど、実際のカウンセリング現場にいますと、いろいろなお話を伺うことがありますよ、はい。

遠くを見る女性
幸せなはずなのに満たされない心理幸せなはずなのに満たされない。そんな感覚を覚えたことありますか? 「幸せなはずなのに満たされない」 僕ももとに日々お寄せいただく...

あなたの心が本当に求めているのは「対等な関係」

では、どうすればこの切ないループから抜け出せるのでしょうか?

そのヒントは、あなたが心の底から求めているものに気づくことから始まります。

それこそ、あなたが心の底から求めているのは、一人の独立した個人として、互いを尊重し合える「対等な関係」ではないでしょうか。

社会的な成功や役割(「すごい人」「できる人」など)で評価される「承認」ではなくて。

あなたの強さも弱さも、喜びも悲しみも、その全てを含めて「あなたという存在」として受け止められる「受容感」

それこそが、深い安心感と「ここにいてもいいんだ」という感覚を与えてくれるもの。

まるで役割にハマったかのような、一方が与え続け、もう一方が受け取り続ける関係ではないんです。

喜びも、困難も、共に分かち合い、支え合い、互いの意見や感情を尊重し合える関係性。

そして、完璧ではない自分、結果を出せない自分、疲れている自分をも安心して見せられ、それでも大丈夫だと受け止めてもらえる関係性。

このような「対等な関係」の中でこそ、あなたの根源的な「欲求」は、健全な形で満たされていくのかもしれません。

認められても満たされないからの卒業〜「受け取る勇気」と「想像力」を育む〜

ただし、大人になった僕たちが、まるで時間を巻き戻しすかのようにして「過去の理想郷」に戻ることはできないでしょう。

残念ながら、それは諦めるしか方法はないようです。

・・・なんだか失望しちゃいました?

でも大丈夫なんですよ。

あなたが、これから育む人間関係の中で「満たされた感覚」を感じることは可能だと僕は考えています。

第一歩は「自己受容」

まずは、「満たされない感覚があるんだな」と、自分の中にある欲求や不安、感情を、否定せずに、ただ認めてあげることから始めましょう。

それが、自分自身への優しさの第一歩です。

「受け取る反応」を育む

人からの好意、優しさ、褒め言葉、愛情表現を、「どうせ私なんて…」「裏があるのでは?」と疑うのではなく、「ありがとう」と素直に受け取る練習をしてみませんか?

それは、媚びることでも依存することでもなく、自分と相手を信頼する「強さ」です。

「愛される可能性」を想像する感性を育む

自分で自分を受け入れる意識を持ち、人の好意を受け取る反応を育んでいくと

「欠点も含めて、ありのままの私でも受け入れてもらえるかもしれない」

「対等で温かい関係を築けるかもしれない」

そう信じる「感性・想像力」が少しずつ芽生えてくるものです。

これは恐れや絶望、諦めではなく、希望に意識を向ける練習そのものです。

具体的な行動へ

例えば

  • 信頼できる友人やパートナーに、ほんの少しだけ、自分の弱い部分や本音を話してみる。
  • パートナーからの小さな愛情表現(優しい言葉、手伝ってくれたことなど)に意識的に気づき、感謝を伝えてみる。
  • そういった具体的な行動を重ねることで、つながりを実感し受け取ることができるようにもなっていきます。

このような小さなステップの積み重ね、大人であればあるほど「面倒」のように感じるかもしれません。

ただ、実際、人との気持ちの良い関わりの積み重ねが自分の心の乾きを満たしていくことが多いようですよ。

これらの具体的な行動を重ねることで、表面的なテクニックや社交辞令ではない、心と心の交流が「受け取れない」を超えていく一つの鍵になる事が多いのです。

最後に

社会の中で、心の乾きを抱えながらも、真面目に、誠実に生きてきたあなたへ。

その頑張りを、誰よりもまず、あなた自身が深く認め、労ってあげてください。

常に「結果」や「承認」に、あなたの価値を委ねる必要はないのかもしれません。

あなたの内側にある「願い」に気づき、それを健全な形で満たしていくことを、自分自身に許可してあげてください。

もし、一人で抱えるのが辛すぎると感じたら、信頼できる友人や家族、そして私たちのような専門家(心理カウンセラー)に頼ることも、自分を大切にするための選択です。

あなたは、あなたのままで、十分に愛され、幸せになる価値のある、かけがえのない存在です。

愛を受け取る勇気今日は「愛を受け取る勇気」についてのコラム。愛を受け取る勇気は、愛することではなく、愛し合える関係への入り口。愛しあえるから喜びも倍になり、愛しあえるから、自立が手放せるようになるんです。...
ABOUT ME
浅野寿和 | 心理カウンセラー
恋愛・夫婦関係・対人関係・性格・生きづらさなど様々なお悩みに心理学でお答え。活動歴16年し、9,000件を超える臨床実績。口癖は「どんなことにも事情があるよね」。名古屋・東京・オンラインでカウンセリングを行う現場主義のカウンセラー。
ご案内

【シンプル。でも実はちょっと複雑】大人のための心理学メール講座(無料)

恋愛・夫婦関係・生きづらさ…。

変化の時代をしなやかに生きるための「心の基盤」をつくるヒントが満載。

週3回(火・木・土)にお届けしています。

カウンセリングのご案内

あなたの「変わりたい」気持ちに、理論と感覚で応えます。

複雑に絡まった思考や感情を紐解き、あなたらしい「本来の力」を引き出す個別セッション。まずは詳細をご覧ください。