こんにちは、心理カウンセラーの浅野寿和です。
今日は「信頼されてるはずなのに、心は満たされない」。そう感じている方に向けたコラムを書いていきますね。
*
たとえば、
職場では責任ある仕事を任されていて、信頼もされている。
恋愛でも、相手から「いつもありがとう」「すごく助かってる」と言われている。
信頼されてるんですよ。ちゃんと。それは間違いない。
しかし、なぜか心はスッキリしない。
なんなら、「こんなに頑張ってるのに、この感じなの?」って思う。
仕事もちゃんとしてるし、恋愛だって誠実。
相手から頼られたり、感謝されたりもしてる。
でも、なんかこう、ポカンと穴が空いてる感じがする。
それ、「自己存在感」という視点で見ると、いろいろ見えてくるものがあるんですね。
今回は、「ちゃんとやっているのに、なぜか報われた感じがしない」「信頼されてるはずなのに、心は満たされない」と感じている人に向けたコラムです。
Index
自己存在感が失われると、信頼も“義務”になる
「信頼されているのに、報われない」と感じるとき。
その信頼は、“その人の存在”ではなく、“その人の役割”に向いていることがあります。
つまり、自分という人間の「存在そのもの」が認められているのではなく、「いてくれると助かる」「やってくれるとありがたい」という、“Doing”の評価だけが先行している状態です。
このとき、人の心にはこうした問いが生まれます。
「私は、役に立たなくなったら、価値がなくなるの?」
でも、こうした疑問に正面から向き合うことは、怖い。
いや、相当怖い。
だからこそ、「もっと役に立たなきゃ」「信頼に応えなきゃ」と、さらにがんばる方向に向かってしまう。
自己成⾧力を持っていたとしても、それは役割や期待に応える方向にどんどん投資されてしまう。
そりゃ、しんどくなりますよね。
すると、関係性のなかで、自分の価値を「成果」や「貢献」で埋め続けようとするループが生まれてしまうのです。
自己存在感とは、「私はここにいる」と感じられる感覚
人は、自分を「どう評価するか」「どれだけ役に立てているか」ばかりに目を向けていると、だんだんと“自分がここにいることそのもの”を感じづらくなっていきます。
自己存在感とは、その逆の要素とも言えます。
自己存在感とは、何かをしていなくても、誰かに認められていなくても、「私はここにいていい」「私はちゃんと存在している」と、自分の内側から実感できる感覚のこと。
これは、スキルや成果とは無関係の、自分の「ありよう」に目を向けたときに感じられるものです。
Doingではなく”Being”
この話をするとき、僕がいつも思い出すのは、イギリスの小児科医・精神科医で精神分析家ドナルドウィニコットの話です。
ウィニコットの話の中に「Being」という考え方が出てきます。
つまり、「何をするか」ではなく、「どうあるか」。
存在しているだけで受け入れられた経験は、のちの人生においても「私はここにいていい」という感覚の土台になります。
この「Being」の感覚が乏しいままだと、人は「〇〇していないといけない」と感じてしまう。
結果、安心感や幸福感は得づらく、評価や役割に縛られるようになってしまうようなのです。
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・・・こう書くと、まるで「Doing」に問題があるかのように思う人もいるといけないのでエクスキューズを書いておきますけども。
「Being」とは女性性的要素、「Doing」とは男性性的要素、と言い換えることができると思います。
そもそも要素的に違うものなので、比較して語るようなもんじゃない、というのが僕の見解。
要はバランスです。意識や行動がDoingに偏ってしまって自己存在感が感じられなくなっている人もいるのかもね、という話です。
なぜ“自己存在感”が育ちにくくなるのか
自己存在感は、幼少期や成長過程のなかで、
「自分がここにいていい」
「何もしなくても大切にされる」
といった経験を通して育つ、と言われていますね。
ただ、
- 家庭内での承認が乏しかった
- 過度に期待されたり、先回りして頑張る癖があった
- 感情を出すと問題が起きるような空気だった
そんな環境の中では、「何かをしないと受け入れてもらえない」「ちゃんとしないと愛されない」という感覚が育ちやすくなります。
結果として、「信頼=義務・責任」と感じやすくなり、相手の好意や感謝ですら、「重荷」のように感じてしまうことがあるといいますかね。
まぁこれは真面目で誠実な人が抱えやすいお悩みでもありますよね。
信頼だけでは埋まりきらない、何か
そういったお悩みを抱えている人ほど「もっと人の信頼を受け取って」とか「そんなに頑張らなくていいよ」という言葉をかけられやすい。
きっと周りはそんな真面目な人を信頼しているので、優しさとして、善意としてそういった言葉をかけるのでしょう。
その言葉を受け取る本人も。その言葉は過去に聞いた言葉とは違うものなので、ありがたいと思う。
その一方で、そういった声や信頼だけは何か埋まらないものがある、とも感じている。
僕自身の経験の中で、そんなクライエントさまの心のあり方に、何度も触れさせてもらってきた気がします。
自己存在感は「高める」ものではなく、「思い出す」もの
自己存在感には、優劣や評価はありません。
そもそも自己存在感を高めるために必要なものは「非認知能力」と言われています。
もともと誰の中にも「ここにいていい」という感覚はあるのだけれど、日々の忙しさや、過去の経験、他人との比較の中で、それがどこかへ押しやられてしまうことがあるんです。
だから自己存在感は、「高める」というより「取り戻す」ものに近い。
自己肯定感のように「高める」という言葉はふさわしくないとさえ僕は思う。
なぜなら「評価」ではないからです。
言いかえれば、「思い出していく」ものだと言ってもいいかもしれません。
更に僕なりの言い方をすれば、「そもそも、あなたの中にずっとあるもの」って感じです(笑)
自己存在感を思い出すには、「内側に目を向けること」
現代の私たちは、どうしても「外」にばかり気を取られやすいものです。
周りの評価や空気、立ち位置、意味、役割・・・。
それらに反応するうちに、つい自分の「内側」に意識を向ける時間がなくなってしまいます。
けれど、今ここで本当に必要なのは、逆のこと。
たとえば、
- いま、どんな感情があるのか?
- 何が好きで、何が嫌だったのか?
- どうされると傷つくのか?
そういった“自分の中にすでにあるもの”に静かに目を向けること。
評価でも分析でもなく、「今あるものに気づく」という感覚です。
たとえば、まずは「好きなもの」を書き出してみる
自己存在感を思い出すために、最初にやってみてほしいのは「好きなもの」を書き出すことです。
ここでのポイントは、「得意なこと」「できること」ではなく「好きなこと」。
得意かどうかは人と比べる話ですが、好きかどうかは、自分の“感じていること”です。
(ちなみに僕は、今朝、ヨーグルト酢ドリンクと昆布おにぎりで食事を済ませました。それが僕の好き、なので。)
そうやって、自分の内側にある感覚を少しずつ拾い集めていくと、「ああ、自分にはちゃんと“ある”んだな」と実感できるようになってきます。
そしてそれが、自己存在感につながっていくのです。
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最後に
誰かから信頼されることは、素晴らしいことです。
でも、もしもその信頼が苦しみに変わっているのなら、そこには「自己存在感」の揺らぎがあるかもしれませんね。
そんなときは、「何ができていないか」を探すよりも、「どんな自分を忘れてしまっているのか」に目を向けてみてください。
あなたの中には、まだ気づかれていない「存在の価値」が、きっとあるはずです。
この考え方は、子育てや職場でのマネジメントにも応用できます。
たとえば、
子どもが「できたこと」を褒めるだけでなく、「いてくれて嬉しい」と伝えること。
部下が成果を出すこと以上に、「あなたがいると安心する」と伝えること。
Doingの評価だけでなく、Beingの視点を差し出すことが、相手の自己存在感を育てるサポートになります。
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