特段、仕事が忙しいわけでもない。
ものすごく、人間関係に困っているわけでもない。
むしろ、いろんなことが整っているように思えることもあるし、今日も穏やかに過ごせた。
……なのに、なぜか「このままでいいのかな、私」と不安になる。
そんなお話を伺うことがあります。いや、結構多いかも、ですね、この手のお話は。
なぜなら、周囲に相談しても「あなたは大丈夫だよ」と言われるだけ、そんな場合が少なくないからです。
自分なりに考えてみても「大丈夫」と思える状況なのです。
明日、ご飯が食べられなくなることはない。
仕事での評価も一定数得ている。
友達だっているし、趣味や余暇に使う時間もある。
なのに、「このままでいいのかな」とか、「この大丈夫な状態っていつまで続くんだろう」とか。
なんなら、「私、どこかで終わるんじゃないか」とすら思ってしまう。
そんなふうに、「大丈夫なのに、どこか不安”になる」という状態に陥る人って、実は少なくありません。
特に、これまでちゃんと頑張ってきた人ほど。
人に気をつかって、責任を果たして、日々ちゃんと過ごしてきた人ほど、ね。
いざ少しラクになったときや、満たされたと感じたときほど、「これでいいのか?」という気持ちが立ちあがる。
この感覚、ありませんか?
そして、なぜこんな感覚になるんだろう?と不思議に思わないでしょうか?
今日はそんな「生きづらさ」にもつながる心理状態を(「幸せって怖いもの」という視点ではない部分から)少し紐解いてみたいと思います。
「幸せ慣れ」してない脳
この状態を見つめていくと、いくつかの理由が考えられると言えるんです。
その中でも「幸せ慣れ」と「脳の反応」という視点は見逃せないんですよね。
いわば「幸せ慣れしていない脳」の働きが影響している、という話です。
たとえば、これまで“緊張感”や“課題”の中で生きてきた人にとって、穏やかで安心できる状況って、むしろ“異物”だったりするんですよ。
たとえば・・・
- 常に「ちゃんとしなきゃ」と気を張っていた
- 家族の顔色を見ながら、場の空気を読んで過ごしてきた
- 職場や学校で「責任感の強い人」として無理をしていた
- 誰かが不機嫌になる前に、自分が先回りして気を配ってきた
- 「何かしら課題を抱えていないと、自分がだらけそうで不安」と感じる
こうした“つねに気を張って生きる癖”がある人にとって、静かで、穏やかで、何も起きていない日常というのは、「何か足りていない」「むしろ不自然だ」と感じてしまいやすいんです。
体や心が、“緊張している状態”のほうを“通常運転”だと認識している。
その結果、「安心できる状況」が“異物”に思えてしまう。
それが、落ち着いているはずの今、なぜかザワついてしまう理由のひとつです。
人は、「慣れ親しんだ環境」を“安全”と判断する傾向があります。
どれだけストレスフルでも、「いつもの感じ」のほうが安心する。
これは、心理学で言う「ホメオスタシス(恒常性)」の作用とも関係しています。
だから、落ち着いた状況に身を置くと、「なにかあるんじゃないか?」と違和感を抱いてしまうわけですね。
「終わり」を探してしまう心のクセ
そしてもうひとつ。
「幸せがいつか終わる」と思ってしまう背景には、“過去のパターン記憶”が大きく影響しています。
たとえば、子どものころにこんな体験があったとしましょう。
- やっと安心できたと思ったら、親に叱られた
- いい感じの雰囲気になってきたときに、相手が急に冷たくなった
- 成果を出したあとに、なぜか人間関係がギクシャクした
こうした“裏切られた安心感”の記憶があると、人は無意識に、「良い時間のあとには、悪いことが起きる」と学習します。
すると、“今がいい時間”であればあるほど、「これはあとで壊れるやつ」のように、先に心が身構えてしまうんですね。
備えるように、不安になる。
予防線を張るように、疑ってしまう。
しかも、このプロセスは自覚されにくいのがやっかいです。
自分では「なんで不安になるのかわからない」けど、心の深いところで「備えている」んです。
だから、安心がこわい。
たとえば、
仕事が落ち着いたタイミングで、「こんなに何も起きないなんて、逆にこわい」と感じる人もいます。
あるいは、職場でいい評価をもらったときに、「次こそ失敗するんじゃないか」と不安になる人もいます。
「仕事がしんどい」だけが生きづらさじゃなくて、「うまくいっている状況に慣れないこと」もまた、生きづらさなんですよね。
幸せの感じ方のクセも見逃せない
もうちょっと踏み込んでみると、人それぞれで違う「幸せや成功の感じ方」の影響も見えてきますよ。
たとえば、「今持っているものを一度“失った”と想像する」人がいます。
「今の仕事がなくなったら大変。でも、仕事はある。」
「今のパートナーがいなくなったらどうなるだろう?」
そんな「コントラスト」を使って今の幸せを感じようとする方法。
実際そう考えることで今のありがたみを感じられる場合もあるんですよ。
確かに「幸せは”コントラスト”で感じる」という側面があるのは事実。(つまり、幸せに慣れてしまえばそう感じにくくなるということ。)
ただ、よくカウンセリングで扱う問題があるとしたら
「今あるありがたみを感じるべきなのに、私はそう感じられない」
「ありがたみは分かる気がするけど、それだけでは安心できないし気持ちも落ち着かない)」
そんな「現状を幸せだと感じられない自分を罰するかのように捉えてしまう人」がいること。
平たく言えば「私って高望みし過ぎなんでしょうか?わがままなんでしょうか?」という批判がその人の中に強烈に内蔵されていること。
この様子を見つめていくと、どこかで「自分が感じていることへの信頼が足りない」、なんて様子が見えてくることもあるんです。
幸せであれそうでない感覚であれ、自分が感じていることをどう扱うか、というテーマがここには隠れている、と僕は思うわけですなぁ。
要は、「何をどう思っても、自分が感じていることを否定するクセあるなら、そこがネックになる」ということなんです。
自己存在感を“持つ”という選択
なので、こうした状態を抜ける鍵として、「自己存在感を持つ」という選択が重要になることが少なくないんですよね。
自分がここにいていい。
幸せや安心を感じるならば、感じていい。
誰かと安心してつながっていい。
そう思えるように「自分の中にある感覚を捉えていくこと」ができるかどうか。
自己存在感が持てないと、「自分らしい感じ方」が失われてしまいます。
結果、世間や誰かと同じように感じていないと、捉えていないと不安になることもありますし、自分の内面で起きる反応にいちいち疑いや批評、正解なのだろうか?という疑いを持ちすぎてしまう場合もあり、それが、漠然とした終わらない不安を生み出すこともあります。
だからこそ、自分に対して「これでいい」と少しずつ許可を出すこと。
また、幸せな状況を「異常事態」と捉える傾向があるなら、「慣れていないのだ」と捉えてみたり、その幸せを「日常」にしていくことも重要ですね。
もちろん、最初はうまくいかないかもしれません。
違和感だらけかもしれません。
でも、それでいいんです。
少しずつ、安心に慣れていく。
少しずつ、自分の“居場所感”を信じていく。
それが、満たされたときの不安に向き合うための、大切な第一歩になることも少なくないですよ。
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最後に
いかがでしたでしょうか?
幸せなはずなのに、満たされているはずなのに不安になることは、ある意味反応の一つだ、と言えるんです。
そして、今、なんでもない日が続いているなら、それを「つまらない」と感じても、批判的に捉える必要もないんです。
むしろ、幸せな状態、穏やかな状態が怖くなるときこそ、自分の中の「安心の許容量」が広がるチャンスとも言えます。
自分自身の感じ方を大切にするとき、なんですよね。
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