こんにちは。

心理カウンセラーの浅野寿和です。

今日は、ブログでの掲載をご許可いただいた話に、僕の創作を加えた「架空のケース」として一つお話したいと思います。

テーマは「いつも引き受けすぎてしまう」ですね。

「後輩が、いつまで経っても育たないんです」というご相談

「後輩がいつまで経っても育たないんです」

そうおっしゃるYさん(仮名)は、職場であるリーダーを任されている方。

後輩に仕事を任せてもミスが多い。

確認しても要領を得ない返事しか返ってこない。

だったら自分がやったほうが早いし、確実だ。

気づけば、後輩の分の仕事まで、Yさんが取り込んでいる状態。

それでも後輩は、特に困っている様子もなく、定時で帰っていく・・・。

Yさんだけが、いつも遅くまで残っている。

おぅ、この状況って何・・・と思うYさん。

先輩に相談すると「それ、抱えすぎだよ」と言われた、と。

ただ、Yさんは「抱え込みすぎって・・・そうなのかもしれないけど、後輩ももっと自覚を持って仕事と向き合ってほしいんだけど。(そうであれば私も抱え込まなくて済むのに)」とお考えでした。

そして、最近は疲れが溜まってしまって「そろそろ限界かもと思う」「職場を変えようかとさえ思う」とおっしゃるYさん。

でも、どうしても後輩に仕事を渡しきることができないようで悩まれていた、という話。

ちなみに、ご来談のきっかけは、彼との関係についてでした。

「彼は感謝はしてくれる人だけど、何もしてくれない。こんな人と結婚していいのか正直悩んでいる。でも、彼のよいところも知っているし、まだ好きという気持ちもあるので決められない。」

実はこれ、同じ仕組みなんですよね、というお話です。

「後輩に責任感を持たせる方法」の、その奥にあったもの

カウンセリングでお話をうかがう際

「そりゃ、しんどいですよね。一人で抱えすぎって言われても、なかなか手放せないものですよね」

なんて話をする僕ではあるのですが、話を聞く中で、いろいろ思うことがありました。

そして、Yさんの口から、こんな言葉が飛び出します。

「後輩に、もっと責任感を持たせる方法ってありますか?」と。

なるほど、と思ったんですね。

この関係が変わらない理由が、何となく見えたかも、と。

Yさんって、努力家で決して依存的な人じゃないんです。

ただ、自分が望む状況への変化を考えるときだけ、「周囲を変える意識」が強くなっていたようで。

彼のことも同じですかねぇ。

「彼がちゃんと私のために動いてくれるには」というお話もありましたかね。

とはいえ、カウンセリングでは、いただいたご質問にお答えしますのでね。

なので、「たとえば、こんな任せ方をしてみては?」という、後輩に責任感を持ってもらいやすくするご提案をすることもありますよ。

ただ、「そこが本当のテーマなんでしょうか?」という感じで、僕もお話をうかがうわけです。

タイミングを見て、しれっとこうお聞きしてみたんです。

「・・・もし、後輩が大きなミスをしたとしてね。それが誰の目にも見える形になっても、Yさんは平気ですか?」と。

そして

「後輩に仕事を渡しきったとして、それであなたは、何をする人になるんでしょうね?」

と。

「自分がいなくても大丈夫」と思われることへの怖れ

僕はこう見立てていたんです。

たしかに後輩に責任感を持ってほしい気持ちもわかりますよ。

後輩が育ってくれないと、Yさんは楽にならないんでしょう。

そういった現実的な要素も無視できないです。

ただ・・・

後輩の仕事を抱え込むYさんは、どうして抱え込むのだろう?

そして・・・

後輩への関わり(状況の変化)を考えるときだけ、どうして「相手次第」っぽく考えすぎてしまうのだろう。

これが、僕の純粋な疑問だったのです。

もし、後輩に完全に仕事を任せて、それでもうまくいく自信があるなら、既にそうしているはずだと思うんですよね。

でも今は、任せることに抵抗感を感じる、としたら・・・。

まだ経験不足な後輩だから任せられないという側面も加味したうえで、「それはなぜなのか?」と見ていたんですね。

僕の見立てはこうでした。

「もしかすると、Yさんは、”自分がいなくても回る職場”になることが、他人が想像する以上に怖いんじゃないか?」と。

誰かに仕事を任せることも、確かに嫌なこと。

ミスが増えるのも、確認の手間が増えるのも、面倒なことです(教育上必要なこととはいえ)。

ただ、そうであっても相手に委ねることができる人もいれば、自分の中にある「頼られている感覚」を手放すことが、めっちゃ怖いと感じる人もいる。

だから聞いてみました。

「もしかして、”私がいなくても大丈夫”な状況が怖かったんでしょうか」と。

引き受けすぎが、相手の依存を引き出す仕組み

職場のセオリーの中には「もっと部下に任せましょう」のような話が言われますね。

でも、僕はこう見立てることがありますよ。

引き受けすぎるにも、それなりの理由がある。

強力な「自分がやらなきゃ」があるところには、たいてい、強力な不安があっても不思議ではない。

たとえば、「自分の存在理由が消えちゃう」といった怖れがある、など。

実はこれ、家族療法の分野で昔から言われている考え方が参考になると僕は考えています。

アメリカの精神科医マレー・ボーエンが提唱した「家族システム理論」の中に、「オーバーファンクショニングとアンダーファンクショニングの相互性」という考え方があります。

誰かが「本来、相手が自分でできること・すべきこと」まで引き受けすぎてしまうと(オーバーファンクショニング)

その相手は、それをする機会を失って、だんだん自分でやらなくなっていく(アンダーファンクショニング)。

そして、この二つは、単に片方が悪いという話ではなく、お互いを”不安から解放し合う”形で、セットとして成立してしまう、と言われているんです。

引き受けすぎる側は、「コントロールできない不安」から解放される。

任される側は、「責任や決断の不安」から解放される。

だから、この配置は、両方にとって、居心地が悪くないんですよね。

だからこそ、なかなか変わらない。

引き受けすぎる自分を責めるより、不安に思うことをケアしていく

「でも、Yさん、今までよく一人で抱えてきたって思いませんか?」

僕はそんなお話をお伝えすることが多いですね。

なぜなら、今回のYさんのような方が抱えているこの重さ。

後輩だけじゃなく、周囲の人たちにもなかなか理解され難いことだからです。

もちろん理解しない周囲が悪い、という話ではないんですよ。

「なぜ抱えすぎてしまうのか。その理由は表面化しない事が多い」ということです。

そんなYさんが、後輩に「変わってほしい」と思うって・・・かなり引いた関わり方をしているというか、後輩をコントロールしたくないと思っていたからこそ、自分で引き受けすぎた結果、生まれたもののようにも見えるんです。

「いつか気づいてくれるだろう、後輩が成長したら状況は変わるだろう」

そう何度も思っていらしゃったようですし。

・・・でも、今は我慢の限界、というかね。

もしそうだとしたら、先程書いたような仕事を抱え込んでしまう「心の仕組み」を見るべきで。

「引き受けすぎる自分が悪い」「後輩が悪い」といった誰かの人格を否定的に見ることは必要ないんですよ。

ちゃんと仕組みを見て。

その上で、この線引をするためには、根っこにある

「自分が無理をしてでも周囲に必要とされたい気持ち」や「自分がいなくなっても・・・」という気持ち、いつからあったのか。

そして、この気持ちを解していって、「引き受けることと、お願いすること・任せることの線引き」ができる自分に近づいていくこと。

そういった状況に近づいていくことのほうがよほど価値があると思うんですね、僕は。

最後に

今回のテキストの途中でご紹介した理論の中には、こんな指摘があります。

「なんとかしてしまう人の最大の弱点は、助けようとしている相手の力を過小評価してしまうことだ」。

でも、おそらくそういった意識、Yさんにはそこまでなかったと思うんですよ。

抱え込みすぎて「もう勘弁してくれよ〜」と思うことはあっただろうな、と思うんですが、抱え込みがなければ後輩を悪意の目で見る意識なんてなかったんだろう、とも感じましたよ。

むしろ、そういった人が、ちょっと悪意を持って人を見るって、それだけでも辛いことだと思うんですよね・・・。

ただ、こういった話は、相手の力を過小評価するよりも先に、自分の評価の方が影響していた、というケースは少なくないものです。

とはいえ、現実では、Yさんが後輩の仕事を引き受け続けるほど、後輩が育つ可能性のある場所を(悪気なく)埋めてしまっていた、という可能性があるわけです。

この手の話は、「何が正解で、何が間違いか」と白黒つける議論になりやすい部分があると思うんですね。

ただ、その白黒に問題解決のキッカケがあるのか、というと・・・。

そんなことを僕はよく考えていたりしますね。

・・・このテキストを読んでくださっているあなたは、周りの誰かの分を、どれだけ引き受けていそうですか?

こちらの記事も参考にどうぞ

ABOUT ME
浅野寿和 | 心理カウンセラー/トレーナー
恋愛・夫婦・仕事・生き方の中で、「ちゃんとやってきたはずなのに」そんな感覚を抱えやすい人のご相談を多くお受けしています。 相談しなくても日常が回っている。でも、どこかしんどい。そんなとき、丁寧にあなたの生きづらさやお悩みをほどいていきます。 キャリア17年・臨床10,000件超。東京・名古屋・オンライン対応

ここまで読んでくれたあなたへ。

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